CEOをやりながら、別会社のCTOもやっている話

Yosuke TOMITA
Dec 12, 2020

CTOA Advent Calendar 13日目の記事です。この記事では、約5年間Web開発会社のCEO(経営責任者)を務めながら、別のHRTech系事業会社のCTO(技術責任者)を務めている私が、CEOとCTOを兼業するに至った経緯や、その過程において発生し(た|ている)葛藤について、つれづれなるままにお話します。

どうしてCEO/CTOを兼業するに至ったか

2013年から2016年まで教育系スタートアップでCTOを務めていた私は、2016年に同社を退職、CTOを退任した後、開発会社をつくり、代表となりました。この会社は、現在は社員10名以下の小さな開発会社です。UX/UIデザイナーと、Webエンジニアで集まってクライアントワークをやったり、最近は自社アプリをつくったりしています。この会社を始めた経緯については、私が過去に書いた記事をご参考ください。

さて、話は、その開発会社創業時の2016年までさかのぼります。開発会社を始めて間もなく、自分のプロダクトを持ちたくなった私は、ちまちまとWebサービスを仕込み始めました(普段から幾つもつくっていたので、これ自体はさほど目新しいことではありませんでした)。そのひとつが、HRTech領域のSaaSです。以前からお付き合いがあったAさん(仮名)と久々に再会した折に事業アイデアのディスカッションで盛り上がり、どうせこれも個人サービスのようなものだと、クライアントワークのスキマ時間を利用してサービスを立ち上げました。

ところが嬉しいことに、このプロダクトが思っていたよりも早くに複数の企業ユーザーにトライアルで使っていただけるようになったため、2017年の中頃よりプロダクトの運営母体をどうするかという問題に行き当たりました。当初創業していた開発会社は、クライアントワークを生業にするつもりで創業し、メンバーもその思いに共感して集まり始めていたところでしたし、一方で、こちらの新しいHRTechなプロダクトもユーザーがつき始めていたとはいえメンバーを養っていけるほどにはビジネスができている状態ではありませんでした。

どちらをとるか、とても悩んだのですが、結果として両方をとることにしました。つまり、開発会社はそのままに、先に登場したAさんとHRTechプロダクトの運営母体となる事業会社を共同創業するという決断をしました。現在私は、そちらの事業会社のCTOを務めています。(以降、便宜上、開発会社/事業会社という書き分けをします。)

ある会社でCEOをやりながら別の会社でCTOをやるということについては、自分の「どっちもやりたいな」欲が出てしまったのでしょう。一方で、周りに多くのロールモデルの先輩方がいらっしゃったことも、この決断を後押ししていたと思います。折しも2016~2017年頃は、フリーランスのWebエンジニアや小規模な開発会社をやりながら、パートタイムCTO/レンタルCTO/技術顧問などの立ち回りでスタートアップを支援するような方もまわりに多く見られました(現在も、比較的目にするように思います)。自分のそのなかの一人なのかな、と思い、さほど重くも考えず、この二足のわらじ生活をスタートしてしまったという経緯があります。

自分自身のリソース配分がわからなくなる葛藤に向き合う

率直にいって、CEOとCTOの二足のわらじで仕事をしていくことは、相当に厳しいものです。

まず、単純にふたつの会社を掛け持ちしていることで、自身の思考時間は分断されます。どちらにとってもベストである選択をしようとしていたとしても、ひとつに集中していた時と比較すれば、判断材料収集も、決断のためにかけられるリソースも半分ずつになってしまいます。

開発会社の代表として、永続的な売上経路を確立していくことも、利益率を増大させていくためにクライアントワークの生産性を上げていくことも、目の前のクライアントワークを自身の目指す相応な品質でやりきることも、いずれも重要なミッションです。

一方で、事業会社のCTOとして、事業スピードを高めるために最適な技術選択をしていくことや、事業ステージを見据えた適切な開発体制を構築・維持していくことも重要なミッションです。創業まもないスタートアップのCTOですので、手を動かすべきシーンは多分にあるのですが、思考を切り替えるシーンが多ければ多いほど、コードに触れて試行錯誤する時間の確保は難しくなる。

それぞれが別の会社ですので、両社あわせて全体最適をつくるように動かすという話ではなく、それぞれの会社にとっての最適をつくっていきます。見るべき視野も思考の軸も異なってくるからこそ、切り替えのコストもかかる。時間をかければかけただけ、成果も自身の納得感も上がりそうなのですが、2つの立場であるからこそ、どうしても自分の限界を意識することになります。

少しずつ事業が進み、いままで経験したことのなかった判断の難しいシーンに直面するときなどは、「いまの兼業状態でなければ、もっと違った決断ができるのかもしれない。自分がもっと時間をかけて手を動かせば、より良い結果を得ることができるのかもしれない」という思いがアタマをかすめます。こういったジレンマを常に抱えながら何ヶ月も走り続けていると、「自分は、ある種の割り切りを許すような決断や行動をしてしまっているのかもしれない」「誰かに不誠実な状態にあるのかもしれない」「『やり切り』できていないのではないか」「早く他の誰かに役割を託すべきなのでは」そんな考えが頭の中を行き来します。自分自身のリソース配分は本当に正しい選択になっているのかがわからない。そんな中でも、慣れや惰性に流されることなく、そのときそのときでベストだと思える決断を重ねていくことが大事だと思ってやっています。

2つの立場であるからこそ、その違いに意識的になれる

とはいえ、大変なばかりではありません。CEOとCTOは立場こそ違えど、会社に対して経営的に関わるポジションです。2つの立場をもっているからこそ、そのポジションの意義と自分の立ち位置に意識的になれるというメリットもあるように思います。

開発会社は、短期的な事業効率を追求すれば、良くも悪くも案件を「こなす」思考になってしまいがちです。しかしながら、これからもずっとクライアントワークだけを生業にしていくとなれば、開発会社としての事業モデル構築により意識的にならねばなりませんし、一方で、「自分が仮にCEOではないCTOだとしたら、何を優先するだろうか」といった想像から、採用や技術投資の思考軸を切り替えることにも意識的になれます。

また、事業会社のCTOとして動くときは、技術のトップとしての職務にコミットしつつも、自身で会社を経営しているからこそ、より会社としての全体感をもった上で意思決定に関われるようになれる部分もあると思います。

二足のわらじは、チャレンジングではあるものの、短期間に得られる学びや気づきも多かったように思います。

ちなみに、CTOを務めることでCTO協会への関わりができ、このAdvent Calendarで複数の方が言及してこられているDX Criteriaのような取り組みをいち早く自身の開発会社に取り入れることができたことは、兼業生活の効果だったかもしれません。運用に乗っているというレベルではないですが、会社にかかわるメンバー全員で各種の評価項目を確認検討できたことは、意義のあるトライになったと思っています。

さいごに

現在も2つの会社でそれぞれのCEOとCTOを務めている私にとって、兼業生活は苦しく感じることもたびたびあります。ただし、どのような道を選ぼうとも、日々の思考と行動を紡いで、その選択の結果・決着をつくっていくのは自分自身です。私自身、今後もこのような在り方で働き続けていくのかはわかりません。しかし、いまの私にとって、どちらの生き方も、とても大切に思っていることは事実です。

それはさておき、技術者の働く環境は、ここ数年で少しずつ変化してきているように思いますが、私個人的には、世の中にはもっと技術者出身のCEOが増えていってほしいとも思っています。世の中でCTOという職についておられる方も含め、現在技術者として働いておられる方で、これから会社代表を志される方がいらっしゃったら(あるいはその逆のパターンの方でも)、心から応援したいと思っています。一緒にがんばっていきましょう。

この記事が同じようなキャリアを歩んでいる方、同じような決断を考えている方に、少しでも参考になることがあったなら嬉しく思います。

最後になりましたが、今回のこの記事を書くにあたって、同じようにCTO/CEOを兼業/兼任された経験のある、尊敬する先輩方に「これからCEOを目指す技術者の方へ」としてコメントをいただきました。メッセージをやり取りし、突然の不躾な依頼にも関わらず、丁寧にご対応いただいたことに感激しました。本当にありがとうございます。ご本人の許可をいただき、ここに紹介させていただきます。

CEOは頭の使い方が全く違うので、勉強することも多く、大変なこともありますが、エンジニア不足を解消する為にも、ぜひ起業して未来のエンジニアをいっぱいつくっていって欲しいです。- 菊本久寿さん

とにかく好き嫌い関係なく、信頼できる仲間を作ることを何より大切にしてください。その中で、あなた自身の考えや振る舞いを気に入らない人も出てくるでしょう。あなたが本当にその人を仲間にしたいと思うならば、自分の考えや行動すら改める必要もあるかもしれません。そういうスタンスそのものが人の器そのものでありますから、大きな器になれるよう心掛けて、自分よりも高い能力とスキルを持った、信頼できる最高の仲間を作っていってください。- 竹内真さん

ここまでお読みくださりありがとうございました。
来る2021年が、皆さまにとって素敵な一年となりますように。

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Yosuke TOMITA

開発会社を経営しているプログラマ。育成や教育の在り方を、ソフトウェアの力でより良くしていくことに関心をもっています。